小唄徒然草 24

今回も春日とよ家元の若かりし頃の小唄ですがすべて古曲なので、江戸時代から幕末、明治期の背景がわかると、より一層、小唄に臨場感がでてきますのですべての唄にその当時の風景や心情描写を書いてみました。
どうぞ、説明文を読みながら、お聴きください。

七、空や久しく(本調子)

都 以中・曲
 
空や 久しく 曇らるる
降らるる 雨も晴れやらぬ
濡れて色増す 青柳の
糸ンの もつれが 気にかかる

この小唄は、大胆に諸流の節を取り入れて作曲された小唄です。

薗八節「空や 久しく 曇らるる」
一中節「降らるる 雨も晴れやらぬ」
清元節「濡れて色ます青柳の」
小唄 「糸のもつれが気にかかる」

・春風が誘う(本調子)

作者不詳

春風が 誘う 香りの
身に しみじみと 
アァ 軒(のき)の梅
うつろう ものと
知れながら 逢えば
男の 口車

春風を男にたとえ、自分を梅の花にたとえて男の移り気を恨む女の気持ちを唄った小唄

★ここからは、江戸時代にタイムスリップしましょう。

八、二人が仲を(本調子) 

作者不詳

二人が仲を お月さま
それと 粋なる 朧影
吸付 煙草の 火明りに
話も更けて ぞっと 身に
夜寒の風に しみぐと 
「焦れったいよ」も 口のうち

江戸時代の「花魁」「遊女」の呼び名は、明治になって「娼妓」と統一され幕末の吉原を知った、風流人にとっては、さびしい限りであった。
そんな遊女とお客の密会をお月さまも粋に朧に隠れ、格子越しに差し出す、吸い付け煙草の、火明かりで、お互いのやつれた顔を見かわす。
夜も更けてきて夜寒の風が身に染みる、男から、この先どうするかの話がなかなかつかない「マッ焦れったいわね」と口の中でつぶやいているさま

・今朝の別れ(本調子)

作者不詳

今朝の 別れに ン主の羽織が 
隠れんぼ 雨があんなに 降るわいな
青田 見なまし ンがたがたと
鳴 かわず

明治中期の吉原を唄ったもので、男を帰したくないので、男の羽織をわざと隠し、主の羽織が隠れんぼしたといい、「外を見なまし、雨があんなに降りわいな青田とは「吉原田んぼ」のこと、幕末から明治中期くらいまで、吉原の竜泉寺あたりを歩くと、右も左も、一面、蓮の田んぼであったらしい、蓮の花が咲くころは芳香が鼻をついたらしい。

九、宵の口舌(三下り)

作者不詳

宵の口舌に しらけたあとを 
啼いて通るや 時鳥
松の嵐に 夢うちさめて
明日の 別れが ああ
思わるる

この小唄は、幕末までずっと上方で唄われていたが、江戸に入って江戸端唄として江戸で唄われた。廓の遊女と馴染み客とが、明日は別れる身でありながら、ふとしたことから口争いをしているところへ、ホトトギスの声が聞こえてきて、仲直り、が前半で後半は、夜半、松吹く風にふと目を覚ました遊女が帰したくない男の寝顔見入るといった唄

★ここは、昭和初旬にタイムスリップ

・濡れてみたさ(三下り)

平山芦江・作 春日とよ・曲

濡れて みたさに 燕(つばくろ)は
柳の葉陰を くぐるではない
あれ あの羽交で すうい すいと
夏の景色を 運ぶとさ

昭和初旬のころに、春日とよ家元が作曲されました。

燕を雨上がりの晩春の銀座の柳を嬉々として飛び交う燕と見て、春日とよのモダニズム小唄です。