師走に向かう頃になると、お教えしたくなる小唄や端唄があり見たくなる芝居があります

小唄「年の瀬や」や端唄「笹や節」と歌舞伎 松浦の太鼓 です。

両国橋の場

雪の降る師走の江戸、俳諧の師匠宝井其角は両国橋で笹売りに身をやつしている赤穂浪士の大高源吾に偶然出会う。源吾は「子葉」という俳号をもつ其角の門人でもあった。久しぶりに会った源吾は武士を捨ててひっそりと暮らしたいという。
気の毒に思った其角は、松浦侯より拝領の羽織を源吾に譲り、何かあればいつでも相談に乗る旨を告げる。しかし風流の心得を忘れてはいないだろうかと、「年の瀬や 水の流れも 人の身も」という発句を源吾に向けると、源吾は「明日待たるゝ その宝船」という付句を返して立ち去る。
飄然と去ってゆく源吾を見送りながら、其角は源吾の詠んだ付句の意味を測りかねる。

松浦邸の場

その松浦侯もまた其角に師事するほどの風流大名で、この日も藩邸に其角を招いて句会を催していた。この藩邸には其角の口利きで源吾の妹・お縫が奉公に上がっていたが、お縫が茶を立てるのを見た松浦侯はなぜか機嫌を損ねる。
そこに其角が、昨日両国橋で源吾に出くわしたこと、そして源吾はいま竹笹売りをしていることを話すと、松浦侯の機嫌はさらに悪くなってしまう。

なにをぐずぐずしているのだ、上野介めはこの塀うにいるというのに。松浦侯は、かつて軍学者・山鹿素行の許で同門だった大石内蔵助がいつまでたっても隣の吉良邸に討ち入らないことに苛立っていたのだ。そのうえ源吾は武士をやめていまは竹笹売りをしているという。腰抜けめ!そんな者に連なる奉公人などこの屋敷には要らぬわ。

松浦侯の怒りは増すばかりで収まる気配もない。やむなく其角はお縫を伴ってひとまずその場を退去することにした。帰り際、其角はふと源吾が詠んだ付句を思い出して口にする。するとその意味がすぐにわかった松浦侯は二人を引きとめる。そして源吾の付句を繰り返し呟く松浦侯の顔に、もう怒りの表情はなかった

との時、にわかに陣太鼓が鳴り響く。驚く其角とお縫を尻目に、耳を澄まし、膝を立て、指を折って太鼓の音を数えはじめた松浦侯の顔は、今や喜びに満ちていた。「三丁陸六つ、一鼓六足、天地人の乱拍子、この山鹿流の妙伝を心得ている者は、上杉の千坂兵部と、今一人は赤穂の大石、そしてこの松浦じゃ」。源吾が残した付句の「宝船」とは、吉良邸討ち入りのことに他ならなかった。その討ち入りがいまここに始まろうとしていることを、山鹿流の陣太鼓が告げている。
「仇討じゃ、仇討じゃ」と興奮する松浦侯気にとられる其角とお縫にふと気づき、「余が悪かった」と詫びを入れる。

歌舞伎 松浦の太鼓 両国橋の場~松浦邸の場~同玄関先の場

https://www.youtube.com/watch?v=3yaS3N3p7-Y

主人公の松浦侯は、初代中村吉右衛門が得意とし、彼の撰んだ「秀山十種」にもこれが数えられているが、17世勘三郎の松浦侯の人間描写が抜群に良い、さすが名優といわれる所以である
https://www.youtube.com/watch?v=gE2Uz_oF5ko

小唄「年の瀬や」

 
年の瀬や 年の瀬や
水の流れと 人の身は
留めてとまらぬ 色の道
浮世の義理の 捨てどころ
頭巾羽織も ぬぎすてて
肌さえ寒き 竹売りの
あした待たるる 宝船

端唄では「笹や節」で唄われておりますが。
討ち入り前夜の人間模様として唄っています。

端唄「笹や節」

♪ 笹や笹々 笹や笹 
  笹はいらぬか煤竹を
  大高源吾は橋の上
  明日待たるる宝船

♪ 饅頭傘に赤合羽 
  降り積む雪もいとわずに
  赤垣源蔵は千鳥足 
  酒に紛らす暇乞い

♪ 胸に血を吐く南部坂 
  忠義に熱き大石も
  心を鬼の暇乞い 
  寺坂続けと雪の中